あらすじ

平安の都に、記録に載らない陰陽師がいた。 刀岐忍(とき の しのぶ)。二十歳。陰陽寮にも属さず、字も読めず、六壬も方位も知らない。だが、二羽の孔雀を従えている。緋(ひ)と、翠(すい)。二百年、その一族に仕えてきた式神である。 忍が使えるのは、二つだけだ。隠形(おんぎょう)と、遁甲。 消える術と、渡る術である。 七つのとき、忍は路地裏にいた。 誰にも数えられない子供として。冬になれば人が死に、朝には片づけられる。誰も、数えない。名も、無い。そういう場所である。 そこから十三年。忍は、消えることだけで生き延びた。 ある夜、そんな男の前に、白い狩衣が立つ。 「――お前、いま、いくつだ」 安倍晴明。当代随一の陰陽師である。 その男が率いているのは、記録に残らない部隊だった。名を、六合という。六人しかいない。表に出ない仕事だけを請け負う、都のいちばん昏いところにいる連中である。 そして忍は、そこで初めて、数えることを覚える。 辻に落ちていた、名も知れぬ櫛。 橋の下で、顔を失くした鬼。 名を呼ばれなくなって、鬼になった女。 地の底で二百年、誰にも聞かれなかった声。 ――全部、数えられなかったものだった。 なぜ、自分の一族は滅んだのか。 なぜ、晴明は自分を路地裏に置いたのか。 なぜ、この都は、こんなにも静かなのか。 問いは、都の下へ降りていく。 二百年ぶんの、深さへ。 そこで忍は、一つの選択をする。 封じるか。 焼くか。 ――それとも、聞くか。 これは、名前の物語である。 呼ばれないものは、消える。 ※基本、毎日22時に投稿致します。 ※小説家になろうにも同時投稿しております。 ※この小説は史実や伝承をモチーフにしたフィクションです。実在の人物や事件とは一切関係はございません。 だから誰かが、呼ぶ。

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カクヨム
カクヨム2026/08/01
  • 現在の作品緋翠の忍 ―― 隠形の陰陽師