あらすじ
東シナ海の上空で、国籍不明の一機が、物理法則を無視した機動で敵機を翻弄した——。
その目撃情報から始まる、小さな違和感。技術専門誌の記者・前田香里奈は、六年前に取材した無名の研究者の言葉を思い出す。
「理論には、まだ大きな穴がある」
日本が極秘に進める重力制御技術は、航空機とロケットの常識を根底から覆し、物流と宇宙開発を一変させるかもしれない。だが、その理論を作った研究者は、二年前、忽然と姿を消していた。
娘を人質に取られ、国家機密を差し出そうとする技術者。
正当な評価を求め、静かに一線を越えていくシステム担当者。
理論の"塞げない穴"を、たった一人で抱え続ける若き准教授。
そして、香里奈の前に何度も現れる、正体不明の男・森川——彼の忠告は、忠告なのか、それとも個人的な想いなのか。
国益のためだけに動く組織と、そこからわずかにはみ出していく人間の心。
「進歩」と「代償」のあいだで、記者は何を書き、何を書かないことを選ぶのか。
読み進めるほどに、正義も、悪意も、一つの立場に収まらなくなっていく——
群像劇型ポリティカル・サスペンス、開幕。