あらすじ
2032年3月、深夜の中央研究所。停電の暗闇の中で、主任研究員・佐倉涼平の頭に「それ」は流れ込んできた。
反重力の原理と、実装手順。
翌朝、彼は5グラムのビー玉を、5秒間だけ宙に浮かせる。誰にも再現できない現象を、彼だけが再現できてしまう。
涼平の父は、90年代の日米半導体摩擦で職を追われた技術者だった。「日本は技術で負けたんじゃない、政治で負けたんだ」――その言葉を原点に、涼平は社内ベンチャー制度「Meridian Seed」へ、この技術を起案する。
だが待っていたのは、宇宙でも未来でもなく、稟議書と役員会だった。
四半期決算がすべてのCFO・冴島徹。「日本企業を延命させる唯一の方法は資産売却だ」と本気で信じるその男は、悪意なき正論の壁として涼平の前に立つ。
技術は誰が持つべきか。一人の善意は、どこまで届くのか。
宇宙から与えられたものを、会議室と実験室と工場で「事業」に変えていく男の物語。
――そして啓示の意味は、まだ誰も知らない。
※『重力を持つ男』三部作の第一部です(全13章)。
※第二部『浮上する国』、第三部『空の向こう側』へ続きます。