あらすじ
野上秀雄は、模試のE判定と母の支配に押し潰され、深夜の町へ逃げ出す。そこで六本脚の幻獣に唇を裂かれた彼は、妖怪や幽霊が食事と引き換えに名前と自由を差し出す異界の配給所へ迷い込む。空腹のまま五円のうどんを買った秀雄の「ひとりで戦いたくない」という願いは、湯気の中から銀髪赤眼の少女を生み落とす。少女は鉄パイプを握り、秀雄を主人と呼ぶが、自分の名前も生まれた理由も知らない。
配給所を管理するアバドン機関は、少女を無断生成体と判定し、七日後の回収を宣告する。けれど秀雄は、彼女を道具として所有するのではなく、レナと名づけ、母に隠れて六畳間で守ろうとする。ぶかぶかのパーカー、卵かけご飯、押し入れの息苦しさ。逃亡の日々の中で、二人は少しずつ、誰にも採点されない居場所を作っていく。
秀雄の力には代金が要る。硬貨と血と願いを触媒に、煙幕や壁を作るたび、彼の命は削れていく。やがて秀雄は、自分に〈万象融成〉と〈創命結合〉という二つの力が眠ると知る。素材から形を作り、そこへ魂まで結ぶ力。機関がそれを手に入れれば、命令に逆らえない兵を量産できる。レナの体は失われた剣士の残り香から作られたかもしれない。だが、うどんをうまいと感じ、秀雄を好きだと選んだ魂は、誰の複製でもない。
秀雄を噛ませた幻獣は、母の指示ではなく、機関内部の幹部一派の罠だった。さらに秀雄は、母こそがアバドン機関の頂点だと知る。母は息子を傷つけないため、安全な箱庭に閉じ込めようとしていた。愛は本物だ。だからこそ恐ろしい。秀雄は母の正解ではなく、間違いだらけでもレナと外を選ぶ。二人は五円玉を魂の一撃へ作り替え、やさしい檻に初めてひびを入れる。