あらすじ
駅前の商業ビル、地下一階。受水槽の副弁のアームが、三ミリずれていた。
設備管理会社の石橋渉は、工具で手首を返して、それを戻した。日誌には「副弁調整」と四文字だけ書いた。後ろで部下の小鳥遊雪乃が、四文字であることを記録している。
戻さなかった場合の話をする。
水は出続ける。使用水量が増える。増えた分が、別の場所の漏水とちょうど相殺され、その地区は「一本も漏れていない地区」に見える。だから調査の順番が回らない。三度目の冬の朝、道が三メートル沈む。断水は一万五千世帯。
かくして、三万八千人の危機は、アームを三ミリ曲げたことによって回避されたのであった。
では、なぜアームはずれていたのか。石橋は知らない。一生知らない。
二週間前、二十四歳のギャルが、悩んでいる相手に「じゃあ切るしかなくないですか」と言ったからである。彼女もまた、自分が何をしたのか、最後まで知らない。
壊す話と、直す話を、交互に。
二人は出会いません。一話完結。