あらすじ

なぜソユーズは六十年飛べるのか。市場が完璧を殺すからだ。 産業用モーターの設計者・逢坂律(オウサカ・リツ)は、十万時間の耐久試験を故障ゼロで走り抜ける機械を完成させた。設計寿命の四倍。二十五年、止まらない。技術者として、それは完璧な成功だった。  だが事業部長は言った。「これをこのまま出すと、うちは十年後に潰れる」  売上の六割は保守と買い替えから生まれている。壊れない機械は、会社を殺す。律のもとに届いたのは、寿命を意図的に縮めるための「劣化設計書」だった。  なぜ、市場は完璧な商品を作らないのか。  律はひとつの反例に行き当たる――一九六六年初飛行、いまも現役のソユーズ。六十年、同じ設計を磨き続けることができたのは、それが国家事業であり、売れなくても潰れない主体の産物だったからだ。  破綻しない主体だけが、完璧を目指せる。  そして市場には、破綻しない主体がいない。  これは資本主義のたったひとつの欠陥だ。律は元投資銀行家の苅田とともに、壊れないほど儲かる会社を設計しはじめる。製品ではなく稼働時間を売り、投資家の利害と機械の耐久性を同じ向きに揃える金融商品――〈稼働債〉。  だが、完璧な機械が普及したとき、それを直してきた町工場の職人たちが消える。  そして律は気づく。ソユーズが六十年生き延びたのは、変えなかったからではない。無数の手が、〇・二ミリずつ触り続けたからだ。  完璧とは、到達する状態ではなく、開けられ続ける仕組みのことだった。

連載情報

ウェブ小説

配信言語
カクヨム
カクヨム2026/07/31
  • 現在の作品ソユーズの逆説 ―資本主義のたったひとつの穴―