あらすじ

竹は、咲くと枯れる。  花谷戸(はなやと)の竹山が前に咲いたのは明治四十一年。次は百二十年後だと 言われてきた。この谷戸の淡竹は節に特有の成分を溜め、環境成分過敏症を抑える 医薬品の原料として、竹材会社と町を支えている。  ある朝、谷戸の中央で母竹が枯れた。ほどなく実に似た空の粒が枝先につき、 老いを止めた一画が現れ、低地の竹が代謝を落とし、南斜面が色づきはじめる。 別々の区画で、別々の担当者が、別々の書類として処理していった異変だった。  植物診断士の芹沢は、それらを一枚の表に並べる。日付を横に、記録の出所を縦に。 並べ替えただけの表が示したのは、群れ全体が同じ手順を進んでいるという事実だった。  数字にならないものを認めない社長。評価欄の言葉を入れ替えた研究主任。 書類を回し続けた班長。判定を保留した品質保証の担当者。もう誰も信じない被害者。 善意で扉を開けすぎた支援者。今日の水路をさらう整備員。線を引くことしかできない 県の職員。  止められない現象を前に、十一人がそれぞれの持ち場で、自分の名前で一行を書く。  残ったのは、揃わない音まで消さずに並べた、一冊の記録だった。

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カクヨム
カクヨム2026/07/31
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