あらすじ
国内初の第四十階層到達。
災害級魔物の単独討伐。
世界探索者ランキング三位。
かつて日本最強と呼ばれた探索者――黒瀬慎吾。
そんな彼が現在働いているのは、奥多摩第一ダンジョンの救助管理所だった。
黒瀬のスキルは、周囲の生物を探る《索敵》。
誰もが知る、珍しくもない平凡なスキルだ。
しかし、二十年間磨き続けた黒瀬の《索敵》は、魔物と人間の違いだけでなく、距離、移動方向、生命反応のわずかな衰弱さえ捉える。
かつて誰よりも早く敵を見つけるために使った力を、今は助けを待つ人を見つけるために使っていた。
配信の視聴者を増やすため、無資格で危険階層へ入った青年。
救助を呼ぶことを恥じ、一人で岩の下に耐え続けるベテラン探索者。
ダンジョンから帰れなくなる理由は、怪我や魔物だけではない。
後悔、意地、孤独、喪失。
心に抱えたものが、人をその場へ引き留めることもある。
黒瀬は、そんな彼らを責めない。
黒い長剣ではなく救助用ナイフを持ち、静かに手を差し伸べる。
「謝るのも、怒るのも、地上でやりましょう」
新人救助員の白石ひなたや、仲間の救助員たちとともに、黒瀬は今日も救難信号の先へ向かう。
救助対象が身勝手な人間でも。
救助員自身が倒れていても。
誰一人、ダンジョンへ置いていかないために。
これは、ダンジョンの最奥を目指す物語ではない。
帰れなくなった人を迎えに行き、地上で話の続きをするための物語。
――助けを呼べたなら、あとは迎えに行くだけだから。