あらすじ
聖環帝国の南東、岩塩街道の谷。九人に減った傭兵隊が、峠下の村で冬営に入る。
秋に出たときは十二人だった。ひとりは川に、ひとりは熱に。そしてひとりは――
歩けなくなった仲間は、置いていく。恥だと言う者はいない。この稼業では、そういうことになっている。
賄い方のメルテンは、隊の粉と椀を数える男だ。
峠の晩に、「担いで行けば粉が尽きる」という数字を出したのもメルテンだった。
冬が深まる。配った覚えのない椀が濡れている。酔った仲間が、霧の木立の際に裸足の男を見たと言う。置いてきた男の靴を貰った新入りが、靴を履かなくなる。どの話にも説明はつく。つくことを、誰も確かめない。
幽霊は出ない――と言い切れる者は、この隊にはいない。
負い目と、合わない勘定をめぐる、冬のダークファンタジー。約1.7万字。全5話。