あらすじ
刺したのは私で、名前は妹のものでした。
十年、そうやって王都へ納めてきました。
代金は家に入り、客は刺し手を知りません。
控えには、刺した者を書く欄がありません。
欄がないので、家は嘘をつかずに済みます。
私はそれを、当たり前だと思っていました。
けれど布には、指の癖が残ります。
四分の間に何針か。それだけで手は見分けられます。
花の中心の返し縫いを、私は三段にします。
妹の婚約が決まった夜、父はこう言いました。
これでもう、お前の手は要らないな。
翌朝、私は針を置きました。
年に二度、宮廷の買付方が検分に来ます。
その人が指を止めたのは、花の中心でした。
この花芯を刺したのは、どなたですか。
家は、その問いになんと答えるのでしょう。
私は、答えてよい立場なのでしょうか。
名前のない手は、いつまで名前を持たないのでしょう。