あらすじ
「死んだ子供は、その冬、8日間だけよく食べた」
戦災孤児院で育ったレオルは、死者の名を残すだけで、存在しない食事が支給され続ける仕組みに気づいた。
前世の彼は、投資事業を装った会社で、人々の期待と信用を組み立てる仕事をしていた。
今度こそ、少しはまっとうに生きよう。
そう考えたレオルは、文字と法令を学び、20年をかけてヴァルネ王国財務院の下級役人へ這い上がる。
しかし、そこで待っていたのは、横領、偽署名、責任転嫁、終わらない戦争だった。必死に働いて得た銀貨2枚さえ奪われ、レオルはついに悟る。
――こんな世界で、まっとうに生きる意味はない。
この世界の人間は愚かではない。
商人は偽貨を見抜き、官吏は複雑な税を計算し、貴族は血統と儀礼を読み、聖職者は何代にもわたる証言を記憶する。
優秀な人間はいくらでもいる。
ただし、彼らの知識は、それぞれの身分と組織の内側に閉じている。
彼らがまだ知らないのは、地球社会が何百年もの金融、企業、広告、投資、情報流通の中で作り上げてきた、現代的な騙しの手法だった。
偽物を見せるのではない。
本物の記録、本物の権威、本物の利益、本物の専門家を並べ、互いの判断を信用させる。
大きな嘘を口にする必要もない。
人は、自分が得をすると信じた瞬間から、自分で自分を説得し始める。与えられた断片の間にある空白を、自らの知識と欲望で埋め、最後には「自分で真実を見抜いた」と確信する。
レオルが利用するのは、紙でも、魔法でも、武力でもない。
人から人へ渡り、権威から権威へ積み重なり、やがて事実より重くなる――信用である。
小さな誤認から元手を作り、旅芸人エレナが身につけた失われた宮廷礼法と、戦乱の中に残された本物の歴史的断片を利用して、レオルはやがて「存在しない国」の過去と未来を売り始める。
学者が発見し、商人が値段をつけ、貴族が正統性を求め、神殿が証言を確かめる。
誰も騙されたとは思わない。
なぜなら、その国を本物だと認める証拠を集め、結論を出すのは、彼ら自身だからだ。
異世界政治×信用詐欺×ダークヒーロー。
剣も万能魔法も持たない男が、人間社会そのものを仕掛けに変えていく。
たまには、力ではなく知性と信用が世界を動かす、本格異世界小説を読みたい方へ。