あらすじ
示談交渉人だった戸倉慧は、一点の瑕疵もない和解書を作り上げた。
半年後、相手方の少女が死んだ。書面はすべて正しかった。
一年後、彼は遺族に刺されて死んだ。遺族は謝罪しながら刺した。
目を覚ますと、俺は帝国の給費生カイ・ヴェルデになっていた。
ここは、交わした誓約が物理法則として効く世界だ。
破れば〈返し〉が来る。声、記憶、指、寿命、命。
ただし、担保を立てた者には来ない。〈返し〉は担保に落ちる。
だから強者は約束を破れる。弱者は担保になる。
十二歳の義妹ミオは、亡き父が結んだ誓約の担保だった。期限まで、あと三年。
そんな俺に、銀髪の女は〈契〉という力をくれた。
一、名を正しく呼び、目を合わせたときにのみ働く。
二、相手が自分の意志で口にした言葉にしか働かない。命令はできない。
三、一人につき、生涯に一度きり。
四、絶対化された言葉は、言った者と俺の双方を等しく縛る。
五、言葉は文字通りに読まれる。
つまり──俺は、自分が守れる約束しか、武器にできない。
昼は帝国最高学府の貧乏な給費生。
夜は仮面の〈立会人〉。強者が破れない契約を、弱者に売る男。
その前に立ちはだかるのが、帝国近衛〈誓約破り〉ユーリ・アークライト。
誓いを破っても死なない、ただ一人の男。彼はこう言う。
「取り消せない約束を作るな。人は誤る。永久の約束は、誤りを永久にする」
守らせる者と、破らせる者。
救おうとしている相手が、同じである二人の話。