あらすじ
霧の絶えぬ運河都市ヴェルネア。ここでは契約が魔術より重い。交わされた言葉は空気中の誓約結晶(オース・クリスタ)に刻まれ、破れば喉から血の華が咲く。
亡き父の遺した「白紙の契約書」を握らされた青年・セイル・アーヴィングは、旧貴族令嬢リディア・フォン・カレンベルクから結婚を申し込まれる。だが、彼女の家は三年前、セイルの父を毒殺した疑いのある一族だった。
「あなたを愛しています」――そう微笑む彼女の指先は、ティーカップの縁で三度、規則的に鳴る。それは商業ギルドの暗号沈黙の三拍。つまり、「この場に第三者が聞いている」の意。
復讐に来た男と、家を守るために来た女。二人の婚約は、盤上の最初の一手にすぎないのだった。