あらすじ
世界に四十あった迷宮のうち、三十九が死んだ。
最後の一つ、迷宮都市ガレアの「穴」も、いつか死ぬ。誰もがそれを知っていて、誰もが考えないようにしている。
十八歳のシド・グランツには、才能がない。同期が二か月で覚える技に、半年かかる。だから彼は、外から持ってくることにした――魔物の動きを見て、理屈を解いて、自分の身体に無理やり組み込む。
才能がある者は、必要な技を必要なだけ覚えられる。だが彼には、それができない。だから、盗んだ技を分解して、誰もやらない組み合わせを試す。
弱い。だが、まったく気にしていない。誰も知らない場所に行きたい。誰も見たことのない魔物を見たい。それだけで、彼は今日も穴に潜る。
人類の到達記録は、第九十九階層。その先に何があるのか、まだ誰も知らない。
――この世界の技は、全部あの穴から持ち出されたものだ。彼が今、盗んでいるものも。