あらすじ
「うちの紅に糠が混ざっていた。混ぜたのはこの者だ」——夏の初め、紅の講の座で、買い手が居並ぶ前で主人がわたくしを名指しした。
否定はいたしません。代わりに、三つ申し上げました。糠でございますか。わたくしがやるなら、そんな下手はいたしません。摘み時を三日ずらします。寒晒しを一度抜きます。刷きを二度で止めます。どれも見た目は変わりません。玉虫だけが出なくなります。
座が、しんと静まりました。最後に一人が申します。「……そりゃ、あんたにしかできん」。
紅の値は嵩ではなく、乾いたときの玉虫の光で決まります。十一年、それを立ててまいりました。手間賃は入って半年の甥と同額に割り直され、柱には匁と刷きの回数が貼り出されました。左様でございますね。紅は、赤ければ売れます。
椀を洗って伏せ、いつもの位置へ揃えて店を出ました。壊しも持ち出しもいたしません。やめるのは、手を入れることだけ。
秋。同じ匁を刷いた紅が、乾いても光りませんでした。小間物屋が灯へ傾けて首を振り、箱がそのまま返ります。誰も怒鳴りません。ただ次の月から、注文が来なくなりました。自分の店を持ったわたくしの前へ「戻ってくれ」と立った主人へ、あの一句をそのままお返しするお話。