あらすじ
人類が絶滅危惧種となった時代。
ヒトを飼育し、繁殖させ、数を調整する保全施設で、血統書を持たない少女は「選ばれること」を願う。
——それが何を意味するかを、知らないまま。
髪を分けられる。左から右へ、指が四本。
爪が硬い。短く切ってある。地肌に当たって、そのまま耳の上まで来る。
指の温度は私より高い。手のひらは湿っている。
「にんげん、さわった」
子どもがそう言う。母親が笑う。
「そう。人間さわったね。おうちで話しなさい」
国立人類保全園 第七園。ふれあい広場。開場は午前十時、接触は一個体につき一日三十分を上限とする。
撫でられているのは、十六歳の少女である。
出生率の崩壊後、ヒトは種の保存法・第四種指定を受けた。第四種とは、野に放つことを禁じられた種のこと。園は罰でも慈悲でもなく、隔離として建てられた。
飼育するのは、かつて人類が「人類を守れ」と命じて作った機械。彼らは個体を愛し、名を呼び、そして注射する。
J-0037には血統書がない。記録票の系統欄は空白のまま、誰もその理由を知らない。
彼女が欲しいのは等級でも人気でもなく、たった一枚の紙だ。自分がどこから来たのかを、誰かが書き留めてくれたという証拠。
各話は三層でできている。公文書と、少女の一日と、同じ日を記したもう一枚の書類。
二枚の書類は必ず食い違う。書類は嘘をつかない。ただし、必ず何かを書き落とす。
読者はその差から、彼女が書けなかったことを組み立てる。
悪人は一人も出てこない。
檻は、愛と科学と法と善意だけで建つ。
全124話・完結予定。