あらすじ
「三枝澪さん。あなたが横領した金額は、三百七十二万円で間違いありませんね」
夜の会議室。
地味で目立たない病院事務員の私――三枝澪は、夫であり医師でもある白石悠真に、ありもしない横領の罪を着せられた。
隣で勝ち誇るのは、妊娠したと笑う不倫相手。
義母は離婚届を差し出し、入院中の母の療養先まで盾に取って、私を黙らせようとする。
誰も、私を信じない。
誰も、私の声を聞かない。
「いてもいなくても同じ人」――そう笑われ、お茶の一杯も注がれない席で、私はずっと、自分さえ我慢すれば丸く収まると思ってきた。
それが、間違いだった。
でも、私は泣き寝入りしない。
怒鳴らない。
泣き叫ばない。
殴り返さない。
ただ、見る。
消えたはずのログイン記録。
握りつぶされた監視カメラ。
伝票のわずかなズレ。
SNSの背景に映り込んだ嘘。
そして、亡くなった父が遺した、古い記録。
魔法もチートもない。
あるのは、誰も気にしない場所に残された事実だけ。
嘘には、必ずズレがある。
私はそれを、一つずつ、静かに拾い集める。
やがて見えてくるのは、夫の不倫だけではなかった。
父の診療所を奪い、その死を「自業自得」に仕立て、地域の医療を裏から牛耳ってきた巨大医療法人・白嶺会の、本当の顔。
私に着せられた罪は、かつて父に着せられた罪と、まったく同じ形をしていた。
そして、黙らされてきたのは、私だけではなかった。
あの人たちが勝利を確信した、まさにその瞬間に、私は静かに言う。
「その日、あなたは、そこにいませんでした」
勝ったと思い込んだ人から、順に、足元が崩れていく。
これは、憎しみで相手を焼き尽くす話ではありません。
嘘で奪われた人生を、事実で取り返し、最後に「自分を粗末に扱わない心」を拾い直す、ひとりの女の記録です。
あなたたちが捨てた私を、もう一度、拾いに来ました。
証拠は、全部そろっています。
――さあ、今夜から。順番に、あなたたちの人生を、終わらせますね。