あらすじ
公爵令嬢イリスベルは十のとしから、婚約者クレメンス殿下が想い人の令嬢たちへ贈る甘い手紙を、ひそかにしたためてきた。令嬢を三人恋に落とし「筆の君」と呼ばれたその言葉は、一字残らず彼女のものである。
夜会の晩、殿下は新しい想い人セレットを横に立たせて仰った。「お前の字は便利だが、心は要らぬ」。イリスベルは一礼し、その夜かぎりで筆を置く。
ほどなく殿下の恋は続かなくなった。セレットが首をかしげる——手紙のあの方は、どこにいらっしゃるの。自分の言葉を持たない男が青ざめるころ、飾らない言葉で話す近衛のガーヴィンが扉を叩く。あなた自身の話が聞きたい、と。
次に生まれる言葉は、彼女だけのものである。