あらすじ
90年代。ブラウン管の向こうで鳴り響くロックバンドに魅せられた13歳の山谷真太郎(やまたに しんたろう)。
からっぽだった彼の人生は、ギターと出会うことで大きく動き出す。
だが、音楽の神は残酷だった。
どれだけ練習を重ねても、圧倒的な「才能」を持つ天才たちには敵わない。リードギターの特等席を無自覚な天才に奪われ、彼に与えられたのは主役を引き立てるだけの「背景(バッキング)」というポジションだった。
『お前は簡単なパートでいいよ』
悪意のない善意でプライドを粉砕された真太郎は、絶望の底で一つの狂気に手を伸ばす。
指先の技術で勝てないなら、足元のエフェクターで、PA卓のフェーダーで、ライブハウスの「空間(ハコ)」そのものを支配してやる、と。
輝く天才たち(太陽)を、選ばれなかった背景(月)が、周波数という見えない檻に閉じ込める。
これは、ギターに魅せられた何者でもない少年が、電子工学と音響理論を武器に極悪な下克上を果たす──努力と執念に塗れた『月食(エクリプス)』の物語。