あらすじ
「燭台とゴブレットが、一組足りない」
晩餐会の片付けの最中、銀食器の紛失が発覚した。最後にその卓を担当していたという理由だけで、新人給仕トビアスに疑いがかけられる。
「わ、私は、何も……」
震える新人を前に、家令が処分を言い渡そうとした、その時。
「……恐れながら、申し上げてもよろしいでしょうか」
声を上げたのは、誰も名前を覚えていない給仕係・ミラだった。三年間、壁際で酒器を運び続けてきた「空気のような存在」。だが誰も気にかけない立場だからこそ、彼女は見ていた。
不審な動きをしていた本当の犯人の姿を。一年前、同じように揉み消された騒動を。
物証はない。あるのは、三年分の記憶だけ。
「誰も気にかけない給仕係でしたので。かえって、よく見えることがございました」