あらすじ
月に一度、小さな喫茶店で開かれる朗読会。怪談を読むため舞台に立った「私」は、客席に十二人の客がいることを確かめていた。しかし最初の作品を読み終えたとき、拍手の音が一人分多いことに気づく。二作目では、十二人の拍手に半拍遅れて重なる十三人目の音が聞こえ、三作目では、その音がはっきりと舞台袖から響いてくる。誰もいないはずの舞台袖を調べた私は、壁の鏡の中にだけ映る黒い服の男を見る。
やがて最後の朗読で私が読み始めたのは、奇妙にも、今まさに起きている「十二人の客と十三人目の拍手」を描いた怪談だった。しかも原稿には、自分で書いた覚えのない続きがある。「十三人目は死者ではない。それは次に死ぬ人間だった」。朗読を終えても客席から拍手は起こらない。だが背後から、ぱち、ぱち、ぱち、と音が近づき、耳元で男が囁く。「次は、あなたの話を読んでください」。
朗読会の予約客は、本当は十一人だった。そして黒い男は、最後に拍手をした者の隣へ移り、次の物語が読まれるのを待つ。もし誰も拍手していないのに隣から音が聞こえても、決して振り向いてはいけない。