あらすじ
「物分りのいい大人」を演じた代償は、存在しない未来の幻影だった。
二十代最後の夏。28歳の葵は、3年付き合った彼・蓮から「転勤を機に区切りをつけたい」と別れを告げられる。結婚を漠然と期待していた自分への惨めさと、ちっぽけなプライドが邪魔をして、「嫌だ」の一言すら言えないまま物分りのいい彼女として笑って背中を押してしまった。
何の約束も同棲の証拠もなかったからこそ、残された部屋には二人で選ぶはずだった未来の残像だけが重なる。
明日も仕事はあるし、私はちゃんと一人で生きていける。――でも、あなたなしで生きる毎日に、なんの意味があるんだろう。
涙すら出ないまま朝を迎える、大人の静かで圧倒的な失恋を描いた短編小説。