あらすじ
~登場人物の紹介とあらすじ~
【i)登場人物の紹介】
■ロクサ・ベルエット
二十歳の生活魔道具修理師。
魔道具に残された感情の余響を「溜息」として感じ取る、珍しい〈余響聴き〉の力を持つ。
しかし父の汚名のせいで、その才能は長く「迷信」と笑われてきた。
感情が乱れると「事実、感情、次の行動」の三つに分けて考える癖があり、怒るほど敬語が丁寧になる。
下町の修理店〈陽だまりの継ぎ目〉を一人で切り盛りしている。
■フィリプ・アルヴァーン
二十五歳。ルミナリア王国第二王子にして若き宰相。
誰に対しても穏やかに微笑む「微笑みの王子」として国民から慕われている。
だがその笑顔には秘密がある。
彼は悲しいとき、苦しいとき、恐ろしいときほど完璧に微笑んでしまう。
他人の暮らしを整えることは得意なのに、自分が助けを求めることだけはできない。
■マディリン・オルド
聖堂文庫の記録官で、ロクサの親友。
慎重で信仰心が篤く、古文書の整理と解読に秀でる。
恋愛沙汰を目の前にすると、なぜか祈祷文を間違える。
■エルヤネ・クロック
王立機巧局の主任技師。
数字と再現性を重視する生粋の機械好き。
ロクサの不思議な力を最初は信用しないが、やがて誰より真剣にその技術的価値を認めていく。
■ヘザー・リーヴ
王宮監査官。
穏やかな物腰で相手の逃げ道を塞ぐ、公正で有能な女性。
王宮に残された不審な会計記録から、十三年前の秘密へ近づいていく。
■クリル・ヴァレ
新進気鋭の魔道具職人。
軽口が多く自信家だが、技術には誠実。
ロクサの競争相手として現れ、やがて彼女の才能を新しい仕組みへ変える協力者となる。
【ii)あらすじ】
夜明け前の王都。
生活魔道具修理師ロクサは、誰もいない街角で一人の青年を拾った。
凍えるほど冷たい身体。
途切れそうな呼吸。
――なのに、彼は息を呑むほど美しく微笑んでいた。
「笑顔は結構です。痛いなら痛い顔をしてください」
ロクサにとって、それは運命の出会いなどではない。
どう見ても「故障」だった。
ところが拾った青年の正体は、国民から「微笑みの王子」と慕われる第二王子フィリプ。
さらに同じ朝、王都十万人の暮らしを支える巨大魔道具〈夜明け鐘〉に異常が発生する。
ロクサが父から遺された銀の留め具を、フィリプが王家の印を持って鐘へ近づいたとき――二人の感情は奇妙に相関し始める。
照れれば街灯が染まり。
嫉妬すれば暖炉が燃え上がり。
二人が近づけば、自動楽団が勝手に恋の曲を奏でる。
絶対に扱いにくい相手。
そう思っていたはずなのに、ロクサは少しずつフィリプの完璧な微笑みの裏側を知っていく。
そして明らかになる十三年前の事故。
汚名を着せられたロクサの父。
王家に隠された秘密。
王都の温かな朝は、長いあいだ「たった一人が苦しみ続ける仕組み」によって守られていた。
誰か一人が我慢すればいい。
誰か一人が犠牲になれば、大勢を守れる。
そんな仕組みを前に、修理師ロクサが選ぶ答えはただ一つ。
「壊れているなら、直します」
これは、誰からも認められなかった小さな才能が、一人の王子の心と十万人の朝を救う物語。
そして「守ること」しか知らなかった王子が、生まれて初めて大切な人へ――
「助けて。君と生きたい」
と言えるようになるまでの、あたたかくて少し騒がしい恋物語。