あらすじ

父を亡くした三年前から、食品倉庫で働く「俺」は、生成AI配信者のLUNAを見続けている。声も顔も生成された存在でありながら、言葉に詰まると左手首を二度こする癖や、ふと見せる不自然な表情に、俺は人間らしさを感じていた。生活費を切り詰め、毎月八万円を投げ銭に使うほど、LUNAは孤独な日々の中心になっていた。  ある夜、LUNAが歌の途中で音を外し、泣きそうな表情を見せる。運営はシステムの不具合と発表するが、直後にLUNAが完全な自律生成へ移行すると告知され、ファンの間では「あの表情こそ本物だった」という声が広がる。俺は配信を何度も見返し、表情の直前に手首を四度こする仕草があったことに気づく。  やがて俺のもとに、三年前の父の葬儀翌日に書いたコメントを知る人物からDMが届く。呼び出されたカフェに現れた神谷という女性は、LUNAのモーションアクターだった。LUNAの動きや表情は、彼女が配信中に演じていたものだという。三年前、俺の父の死を綴ったコメントを読んだ彼女は、思わず泣いた。その感情が、LUNAの表情として画面に現れていたのだ。  しかし、完全AI化によって切り捨てられるのは、彼女の動きのデータだった。最後の配信を前に、神谷は「自分がいたことを誰にも知られないまま終わるのが嫌だった」と俺に告げる。  最終配信の日、俺は父の保険金二百八十四万円をすべて投げ銭に注ぎ込み、「三年間、俺の言葉を読んでくれた人へ。あなたがいたことを、俺は知っています」と送る。LUNAはコメントを読み、左手首を二度こする。返事なのか、ただ言葉に詰まっただけなのか、俺にはわからない。それでも、その仕草を最後のつながりとして受け取る。  完全AI化後、LUNAから手首の癖は消える。だが四か月後、父の命日に俺が感謝を綴ると、LUNAは再び同じ仕草を見せた。誰にも説明できない現象を前に、俺はいつか神谷の秘密を聞く人間になることを決める。二百八十四万円で買ったものとしては、悪くなかった。

連載情報

ウェブ小説

配信言語
エブリスタ
エブリスタ2026/08/11
  • 現在の作品ディープフェイク・マイ・ラブ