あらすじ
日向航、二十八歳。大手探索クラン〈ヘリオス〉のダンジョン専門配達員だったが、「戦えない人員に予算は出せない」と契約を切られた。
その夜、崩落区画に取り残された少女へ小児用の薬を届けてほしいと頼まれる。救助隊の地図は壁で途切れていた。ところが荷物に本名を書き、送り主が本気で届けたいと願った瞬間、航にだけ淡い緑の道が見えた。
道は短い。安全とは限らない。それでも薬は間に合った。
救助映像が広がった翌朝、彼の私書箱へ一枚の配達票が届く。消印は十年前。差出人は、封鎖事故で死んだはずの父だった。
配達先は公的地図に存在しない〈零番層〉。しかも同じ階層には、事故で失われたはずの百二十七人分の宛名が残っている。航が一件届けるたび、死者扱いされた誰かの生存が証明される。逆に、クランは宛名と住所を記録から消し始めた。
倒す力はない。間に合わせる力ならある。これは一人の配達員が、消された住所と帰る場所を取り戻す物語。