あらすじ
何も考えずにいることすら苦痛に感じる「私」は、思考の主導権を取り戻すため、自らの嫌いなものについて考え始める。
感情表現、勧善懲悪、僥倖、そして人間。人間の傲慢さや怠惰さ、残酷さを嫌悪する「私」は、宗教や天国という概念にまでその矛先を向け、人間が自らの幸福や救済を当然のように求める姿を愚かだと断じる。しかし、人間を批判する自分自身もまた人間であり、その自己嫌悪さえ「他者とは違う自分」を演出するための優越感なのではないかと疑い始める。
そんな思考の中、「私」はかつて見た奇妙な夢を思い出す。嵐の夜、山奥に建つ豪華な洋館。そこでは次々と人が殺され、探偵すら早々に命を落としていく。しかし誰からも興味を持たれなかった「私」は最後まで生き残り、この殺人劇をむしろ安らかな「ハッピーエンド」として記憶していた。
そして「私」は気づく。夢を見ているときや誰かと話しているときなど、自分の手を離れた何かに身を任せている間だけは、果てしなく続く「思考の牢」から逃れることができるのだと。
だが、他人との会話によって自らの快楽を満たしている自分もまた、嫌悪してきた人間そのものではないか。
考え続けても愚か。考えなくても愚か。
結局「私」は、自らを含めた人間の愚かさへと再び帰結する。