あらすじ
冬のモスクワ。過去の記憶を一部失ったまま、静かに暮らすフリー翻訳家のユーリ。ある夜、彼は密閉された部屋の中で「乾燥した木屑と生乾きの塗料」という異様な匂いと、空から無数に降り注ぐ木製人形の削り破片を目撃する。
翌朝、同居していた恋人のオリガが跡形もなく消失。代わりに部屋にいたのは、大学時代に実らぬ恋のまま遠ざかったはずの女性・アレーナだった。彼女は当然のようにユーリの恋人として振る舞い、街の記憶も世界の現実も、すべてアレーナに合わせて書き換えられていた。オリガの存在を証明するのは、彼女の香水がかすかに匂う、手のひらサイズのマトリョーシカひとつだけ――。
「外側の皮が剥がれたのだ」と嗤う謎の骨董商ニコライ。そして旧ソ連の極秘実験「プロジェクト・マトリョーシカ」の影をちらつかせる恩師のカザン教授。
「夜」が訪れるたび、大切な人が消え、ひとつ前の関係性へとすり替わっていく。
まるでマトリョーシカの人形を削り出すように人間関係が奪われていく中、ユーリは自らの記憶の最深部に隠された「決して開かない原点の真実」を追い、シベリアの極寒の廃墟都市へ向かう。
自分自身すら信じられなくなる極限の心理サスペンス・ミステリー。