あらすじ
見合い肖像は、板に描く。受け取った家が縁を決める。
工房の下働きの少女、ネフィは人の顔が覚えられない。一晩眠れば、誰の顔も同じ形へ崩れてしまう。だから似せて描けない。七年、手本を写す修業をして、七年しくじり続けた。
欲しいものは、ひとつだけだった。一人でいい、朝になっても崩れない顔が。
その彼女が、親方の代わりに、王太子殿下の見合い肖像を描いた。描けたのは「こうあるべきだ」と思った形だけ。「不敬なほど似ていない」と断じられ、工房は看板を下ろし、ネフィは辺境へ下げ渡されることが決まった。
――わかりました。もう、似せようとするのは、やめます。
半年後。辺境の館に、王都からの早馬が着く。
「殿下のお顔が、あの絵のとおりになっておられた」
報せを受けたのは、左の顔に古い火傷を持つ辺境伯だった。三度、縁談が流れている男である。翌朝、板を抱えて通された彼女に、男はまずこう言った。
「俺を描け。ただし、治すな」
ネフィにとって、誰かを描くことは、告白と同じだった。
――なお、王都の広場に並ぶ彫像は、どれも少しずつ同じ顔になってきているという。