あらすじ

「お前の結った筆に、余分な値はつけない。どれも同じ筆だ」——秋の初めの朝、筆市の買い手の前で、主人はわたしの手から毛の束を取り上げた。 毛は束ごとに腰が違う。夏毛は先が痩せるので命毛を一本内へ寄せる。湿りの日は膠を薄く。腰の弱い毛が三本混じれば束ごと外す。柱に貼れるのは毛の匁と膠の割だけで、見分けは全部この頭の中にある。 手間賃は入って半年の若い衆と同額に割り直され、柱には手順が貼り出された。承知しました。どれも同じ筆です。では、わたしの分は結いません。 道具を拭いて棚へ戻し、いつもの位置へ揃えて店を出た。壊しも持ち出しもしない。やめるのは、結うことだけ。 秋の筆市で、あの店の筆にだけ値がつかなかった。書き手が試し書きで首を振り、箱がそのまま返る。誰も怒鳴らない。ただ次の月から、注文が来ない。 自分の店を持ち、初めて自分の名で筆を結んだわたしの前へ「戻ってくれ」と立った主人へ、あの一句をそのまま返す話。

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小説を読もう2026/08/11
  • 現在の作品用済みと十一年の毛の束を取り上げられ膠椀を伏せました。お宅の筆、秋の市で値がつきません