あらすじ
「孫子の兵法なんて、クソ喰らえです」
そう言い放った少女、リゼット・アルヴェインは、剣も魔法も使えない落ちこぼれだった。
だが彼女には、誰にも真似できない才能がある。敵兵の表情、指揮官の性格、兵士たちの心理、地形、天候、食料――戦場に存在するあらゆる情報を読み取り、敵が次に何をするのかを推測する力だ。
彼女が初めて軍師として指揮を執ったのは、わずか二十数人の村人と五十人の傭兵による小さな戦いだった。
「勝てるのか?」
「はい。敵に勝ってもらいます」
兵法の定石を無視し、敵の心理を利用して戦場そのものを罠に変えるリゼット。その奇策によって村を救った彼女は、やがて領主に見出され、より大きな戦いへ身を投じていく。
傭兵団との戦いから領主同士の争いへ。そして都市国家、王国へ――。
戦争の規模が大きくなるほど、彼女の戦術は常識から外れていく。
正面から勝てないなら、正面から戦わない。
敵が守れば攻めさせ、攻めれば守らせる。
敵が最善の判断をした瞬間、その判断そのものを敗因へと変える。
やがて彼女の前には、十万を超える大軍が立ちはだかる。
「敵は十万だぞ!」
「十万人全員と戦う必要なんてありませんよ」
これは、小さな村の戦いから始まった少女が、知略だけを武器に国家の命運を左右していく物語。
そしていつしか敵国の軍人たちは、彼女をこう呼ぶようになる。
――『定石殺し』。
彼女と戦う者にとって、常識こそが最も恐ろしい罠だった。