あらすじ
「――君の名前を、まだ聞いていない」
魔力を持つ者だけが貴族として扱われる国、エルディナ。没落した魔術師の家に生まれたリゼは、両親を亡くし、裕福な親戚の屋敷に引き取られた。
だが家族として扱われることはなく、与えられたのは屋根裏の寝床と、使用人と同じ量の仕事だけだった。十五の春の測定式で、彼女の光晶は灯らなかったからだ。
ある夜、息が詰まって屋敷を抜け出した街外れで、リゼは一人の青年と出会う。
互いに名も身分も明かさないまま、夜が明けるまでの短い時間を、言葉だけで過ごした。
誰かに「働き手」ではなく「一人の人間」として扱われたのは、リゼにとって初めてのことだった。
「また会いたい」
別れ際、青年はそう言った。
けれどリゼは、その言葉を信じることができずに帰路へと着くのだった。
だがある日、屋敷の門前に、一台の馬車が止まった。
――王都にその名を知られた魔術師一族の、後継者を乗せて。