あらすじ

「麹は誰が回しても同じだ」——寒仕込みの朝、蔵元の前で、主人がわたしの手から麹蓋を取り上げた。 蒸し米は日ごとに水を持つ量が違う。雨の翌日は水を切る時間を延ばす。北風の日は床の温度を半刻早く上げる。新米の月は種を薄くする。手順書に書いてあるのは米の量と時刻だけで、癖は全部この頭の中にある。 賃銀は若い衆と同額に割り直され、壁には手順書が貼り出された。承知しました。手順どおりです。では、手は入れません。 袖に手を入れたまま床を一巡し、麹蓋を洗って棚へ伏せて出た。壊しも持ち出しもしない。やめるのは、手を入れることだけ。 ひと月で床が青くなった。手順どおりに温度を上げても破精込まない。仕込んだ酒はだれ、樽が返る。誰も怒鳴らない。ただ次の月から、注文が来ない。 川向こうの床を任され、初めて自分の名で麹を回したわたしの室の前へ「戻ってくれ」と立った主人へ、あの一句をそのまま返す話。

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小説を読もう2026/08/11
  • 現在の作品用済みと十四年の床を取り上げられ麹蓋を伏せました。お宅の酒、次の仕込みでだれます