あらすじ
「十年間、親の介護をしてくれてありがとう。おつかれー。じゃあ、離婚しよう」
義母の葬儀を終えた夜、立花葵は夫・圭介から、あまりにも冷たい言葉を告げられた。
結婚してから約十年。
葵は夫の両親と同居し、認知症を患った義父と要介護状態の義母を一人で支えてきた。
食事、排泄介助、通院、薬の管理、夜間の見守り。
夫は「仕事が忙しい」と言い、介護をほとんど手伝わなかった。
それでも葵は、家族なのだから仕方がないと耐え続けた。
だが、義両親の介護が終わった途端、夫は葵を「用済み」とばかりに切り捨てようとする。
しかも圭介には、二十六歳の部下・美香との不倫関係があった。
「妻とはもうすぐ別れる」
「親の介護が終わったら、一緒になろう」
そう美香に約束していたのだ。
圭介は、葵が何も知らず、泣いて家を出ていくと思っていた。
しかし――。
「離婚は構いません。ただし、私一人で条件を決めるつもりはありません」
葵は静かに弁護士へ相談する。
そこで初めて明らかになる、葵が十年間にわたって残していた記録。
介護日誌。
通院記録。
介護費用の領収書。
夫とのメッセージ。
介護を拒否した夫の発言。
そして、夫の不倫を裏付ける証拠。
「あなたが十年間してきたことは、何もなかったことにはできません」
弁護士・佐伯蓮の言葉に、葵は顔を上げる。
夫に捨てられたと思っていた十年間。
けれど、その十年間こそが、葵自身を守る証拠になっていた。
一方、離婚を急いでいた圭介は、慰謝料や財産分与の現実に直面し、次第に追い詰められていく。
さらに不倫相手の美香にも、思いもよらない現実が突きつけられる。
「私、あなたの老後の世話をするために付き合ったんじゃない」
家庭も、愛人も、会社での立場も失っていく圭介。
それでも彼は、最後まで葵が戻ってきてくれると思っていた。
しかし、もう遅い。
「十年間、おつかれさま。私」
すべてを清算した葵は、誰かの妻でも、誰かの介護要員でもない。
自分自身の人生を取り戻すため、新しい一歩を踏み出す。
**十年間、家族のために生きた妻が、最後に取り戻すのは――お金だけではない。自分の人生そのものだった。**