あらすじ
ロザリンドは、いつも素手でいる。
手袋をしない令嬢は、社交の場では珍しい。
けれど誰も、その理由を尋ねない。
彼女は婚約者の手を、三年間握り続けてきた。
触れているあいだだけ、相手の不運を自分の身へ移せるからだ。
落馬も、火事も、破談も、すべて彼女の身に起きた。
代わりに、ロザリンドは杖なしで歩けなくなった。
それでも婚約者は、感謝の言葉しか持たない。
君がいると何もかもうまくいく、と。
婚約を解消したいと告げられたのは、晩春のことだった。
その話を聞いているあいだも、彼女は手を握っていた。
別れ話の最中まで、彼女は働いていた。
そして、話が終わる。
ロザリンドは、はじめて手を離す。
指の跡だけが、白く残った。
翌週から、あの家では何かが起きはじめる。
けれど彼女は、何もしていない。
何もしないことを、選んだだけだった。
引き受けるのをやめた人は、誰かを傷つけたことになるのか。
その答えを、まだ誰も持っていない。