あらすじ

「もう十分だ。君はいつまで一枚の布にかかずらっているつもりだ」——春の夜会の支度中、招いた客にまで見えるよう、婚約者はわたくしの手から乾きたての卓布をさらって女中へ渡しました。 館の格は、家名でも建物でもございません。客が触れる布の一枚で決まります。雨の続いた週は糊を三分薄く。麻の卓布は生乾きで畳むと折りが死ぬ。客用の寝具は前夜に一度広げて空気を抜く。壁に貼れるのは糊の割と干す刻だけで、その日の読みは全部わたくしの頭の中にございます。 七年ぶんの働きは、入って半月の義妹と同じ一行に並べられました。洗い場の壁には割が貼り出されました。左様でございますね。わたくしがいなくても、館は回ります。 では、糊は置いてまいります。布も壊しも持ち出しもいたしません。やめるのは、手を入れることだけ。 夏の夜会。糊の割は正しく、干した刻も正しく、女中の人数も記録どおりでした。それでも卓布の中央は、燭台の下で波打ちました。客用の寝具は湿気を吸って重い。誰も怒鳴りません。泊まった客が朝、礼だけ言って早くお帰りになるだけです。 次の季から、招きに応じる家が減りました。王都の支度を任されたわたくしの前へ「戻ってくれ」と立った婚約者へ、あの一句をそのままお返しするお話。

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小説を読もう2026/08/11
  • 現在の作品婚約破棄。七年ぶんの糊を置いて出ます。次の夜会が見物ですわ