あらすじ

白でも黒でもない、灰色のグラデーション(宙)の中で—— 俺たちは、解体されていく街の影に息を潜めていた。 出版社のエディトリアルデザイナー・彩宮 秋(さいみや あき)には、誰にも言えない秘密があった。 彼は生まれつき色覚に特性があり、世界の色を正しく判別することができない。幼い頃からその事実を隠すため、日常の会話では「色」を使わず、物体の形状や明暗、質感に言葉をすり替えて「曖昧」にごまかして生きてきた。色が分からないからこそ、ミリ単位の余白と光と影のトーンを研ぎ澄まし、無難で完璧な誌面を作るデザイナーとなった秋。 そんな彼に、再開発により取り壊しが決まった昭和のアーケード街「汐見(しおみ)」のドキュメンタリー誌を手掛ける白羽の矢が立つ。 秋がカメラマンとして指名したのは、汐見出身の既婚フォトグラファー・朝山 すみれだった。 世間が好む鮮やかな色彩に頼らず、街の記憶が滲む「静かな影の階調」を完璧に捉えるすみれの写真。色が見えない秋にとって、彼女のレンズを通した世界だけが、誰よりも美しく鮮明に胸に響いた。 取材を進める中で、二人の距離は次第に縮まっていく。 しかし、すみれの左手には冷たいゴールドの指輪が光り、冷めきった家庭と夫からの着信が静かに現実を突きつける。 自分の色覚を隠し、世界を「曖昧」にやり過ごしてきた秋。 だからこそ、すみれへの想いだけは「白(ただの仕事仲間)」か「黒(一線を超えて奪い去る過ち)」か、ハッキリと白黒つけたいという激しい衝動に駆られる。 だが、白黒をつけることは、傷ついた彼女の立ち位置を奪い、二人の関係を壊すことでもあった。 消えゆくシャッター街の影の下で交差する、色を隠す男の秘密と、傷を抱えた女の孤独。 「白黒つけられない曖昧さ」を抱えた二人が辿り着く、切なくも真摯な恋の行方とは——。 『モノクロの宙(そら)』 ——色を失った世界で、あなたという「影」に出会えた。

連載情報

ウェブ小説

配信言語
小説を読もう
小説を読もう2026/08/11
  • 現在の作品モノクロの宙