あらすじ
作品紹介
最後の門弟が去った日、刀の少女が目を覚ました。
かつては子供や社会人の掛け声が響いていた、古流剣術の緋山道場。
しかし時代とともに門弟は減り、最後の一人まで転勤で町を去ってしまう。六十を越えた道場主・緋山惣一郎は、ついに自分の代で道場を閉める決意をした。
緋山家は、武具に式神を宿して災いを祓った古い陰陽師の家系。
だが惣一郎は、祖父から聞かされた伝承を昔話だと思っていた。
道場の看板を下ろそうとした、その瞬間までは――。
守護刀から現れたのは、白い小袖と緋色の袴をまとった黒髪の少女・コトハ。
「この道場を終わらせることは、私が許しません」
刀の式神を名乗る彼女は、眠りながら歴代当主の剣を見守り続けてきたという。
コトハの美しい演武を偶然目撃した中学生・高瀬直人は、翌朝、道場の門を叩く。
「僕を、弟子にしてください」
何をしても怖くなり、逃げてしまう自分を変えたい。
そんな直人を最初の弟子として迎えたことで、止まっていた道場の時間が再び動き始める。
だが、目覚めた武具はコトハだけではなかった。
道場の蔵には、薙刀、具足、槍、脇差し、弓――五体の式神が今も眠っている。
そして初稽古の日、封じられた薙刀が直人へ呼びかける。
――遅い。ずいぶん、待たせたな。
新たな弟子との出会いによって、一体ずつ目を覚ましていく武具の式神たち。
忘れられた緋山家の陰陽術と、道場に隠された本当の役目。
これは、道場を閉めようとする頑固な老剣士と、それを許さない刀の少女、そして変わりたいと願う若者たちが、途絶えかけたものを未来へ受け継いでいく物語。
登場人物
緋山惣一郎
六十を越えた緋山道場の当主。
無口で頑固だが、誰も来なくなった道場を毎朝欠かさず磨き続けてきた。最後の門弟が去ったことで道場を閉めようとするが、コトハの覚醒によって止まっていた人生が再び動き始める。
緋山家に伝わる古流剣術の達人だが、その型に陰陽術が隠されていることを本人は知らない。
コトハ
緋山家の守護刀に宿る刀の式神。
長い黒髪に、白い小袖と緋色の袴をまとった少女の姿をしている。礼儀正しく凛としているが、道場の継承に関しては非常に頑固。主である惣一郎にも遠慮なく意見する。
眠っていた間も道場の音を聞き続け、歴代当主が受け継いできた剣技をすべて記憶している。
高瀬直人
緋山道場へ新たに入門した中学生。
臆病な自分を変え、「逃げずに立てる人間になりたい」と願っている。コトハの演武に心を奪われ、惣一郎に弟子入りを申し出る。
初稽古の日、蔵に封じられた薙刀の式神から呼びかけられる。
眠れる五体の武具式神
緋山道場の蔵に封じられている、薙刀、具足、槍、脇差し、弓の式神たち。
それぞれに相応しい継承者が現れるまで、目覚めることはないと伝えられている。直人の入門をきっかけに、長い眠りから目覚めようとしている。
作品の見どころ
* 頑固な老剣士と、生真面目なのに少しずれた刀の少女の掛け合い
* 弟子たちの成長とともに、一体ずつ目覚める武具の式神
* 寂れた道場に、再び人の声と温かな日常が戻っていく道場再生物語
* 古流剣術と陰陽術が交わる、現代和風ファンタジー
* 「受け継ぐとは何か」を描く、世代を越えた師弟の物語