あらすじ
「――練習相手に、なってくれない?」
全国大会を狙う演劇部の看板役者・汐見詠から、告白場面の稽古を頼まれた。
俺は放送部の音響係だ。声を出す側じゃない。録る側の人間である。
渡されたのは、十編入りの『告白練習ノート』。
海辺。保健室。駅のホーム。雨の昇降口――
場所も、時刻も、演じる感情も、一編ずつ違う。
違わないのは、〈相手役〉の欄だけだった。
一編目、高瀬律。
二編目、高瀬律。
……読めるページは、全部、俺の名前。
十編目だけ、輪ゴムで留めてある。
「キミがね、一番演技しやすいんだ」
彼女はそう言って笑う。
じゃあ、どうして稽古の途中で、台本にない台詞が混ざる?
どうして彼女は、三年前に俺が言った一言を、俺の言い方のまま返してくる?
演出の先輩が決めた稽古の則は、五つ。
――一編一回。撮り直しはしない。
――切ったら、稽古場の外へ持ち出さない。
嘘の告白を重ねるほど、本音が一段ずつ近づいてくる。
甘くて、痛くて、逃げ場のないリハーサルが始まる。