あらすじ
約一万二千年前。現代の島が一つ、住民も都市もそのまま過去へ転移した。周辺数百キロに人の痕跡はなく、人々は結論に達する。この世界にいる人類は、自分たちだけなのだ。
補充のきかない医薬品、種子、燃料、知識、そして人口。人類を存続させるため、島は強大な統制権を持つ《中央禁止法》を制定した。それは実際に、多くの人を救った。
数十年後。国民の認知能力を測定し役割を決める制度《セレブレム》のもと、灰谷累人はどの適性にも属さない「灰色域」と判定された。そこから生まれた蔑称が《灰血》——役に立つ人間にも、保護される人間にもなれない半端者。彼自身も、いつしかそう信じていた。
境界部の物資管理という目立たない仕事に就いた累人は、立入禁止区域の近くで不自然な痕跡を見つける。同じ高さで折られた枝。石を削った跡。何かを焼いた灰。
報告への回答は、丁寧で、事務的で、反論の余地がなかった。「自然現象だ」「動物によるものだ」「それ以上調べることは禁止する」。
難しい説明は理解できない。だからこそ、単純な疑問だけが残った。
——だったら、どうして調べちゃいけないんだ?
柵を越えた先で、彼は存在しないはずの誰かと出会う。自分と同じように傷つき、怯え、赤い血を流す人間に。
そして中央から、自分が浴びてきたものとまったく同じ言葉を聞く。
能力が低いから。理解できないから。役に立たないから。だから、同じ人間ではない。
登場人物
灰谷累人(はいたに るいと) 19歳。境界部・物資管理課。セレブレム判定は灰色域。計算を間違え、言葉の裏が読めない。武器は理解力ではなく、忘れないことと、諦め方を知らないこと。
久我志乃(くが しの) 元・適性判定官。累人を灰色域と判定し、境界部の職を用意した本人。彼を名前で呼ぶ唯一の人。飢餓期を生き延びた世代。
冬木サダ子(ふゆき サダこ) 境界部の同僚。判定にも中央にも興味がない。口癖は「へえ。で、飯は」。
明星玲(あけぼし れい) 中央勤務の同世代。累人に親切で、見下していない。だから残酷。
鷺宮ミオ(さぎのみや みお) 中央統括官。冷酷ではなく事務的。彼女にとって分類は差別ではなく作業。
ラハ 柵の向こうで出会った相手。言葉は最後まで通じない。「ラハ」は累人が真似た音であり、本当の名ではない。
全24話・完結済。