あらすじ
幕末の京、三本木の花街。
芸妓・幾松は、三つの握り飯を笹の葉に包み、ひとり夜の闇へ出ていった。
「すぐ戻る」
そう言い残された幼い禿は、暗い土間で姉さんの帰りを待つ。
やがて幾松は戻ってきた。
着物の裾は濡れ、白足袋は鴨川の泥にまみれ、髪は乱れている。そして、その身体から香る、かすかな鉄の匂い。
けれど、禿は何も尋ねない。
客の名を口にしない。
聞いたことを外へ持ち出さない。
見たことを、見なかったことにする。
それが、花街の掟だった。
三つの握り飯は誰のためだったのか。
幾松は、何をしに夜の川へ出たのか。
語られることのない一夜を通して、幼い禿は知っていく。
人を守るために、口を閉ざすということを。
幕末の京・三本木を舞台に、握り飯と伽羅の香りで描く、静かな人情歴史短編。
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本作は、山龍遼士郎さまの自主企画「名もなき人々の、物語【歴史・時代小説】」参加作品です。