あらすじ
大手メーカーの経理部で働く佐藤葵は、夫の拓海と堅実な結婚生活を送っていた。派手な暮らしはできなくても、住宅ローンを返しながら将来のために貯蓄する。そんな平穏な日々が、夫宛てに届いた一通の督促状によって崩れ去る。
拓海は葵に相談することなく、幼馴染・川村美咲の事業融資三千八百万円の連帯保証人になっていた。それだけでなく、自分名義の自宅を担保に入れ、夫婦の家計から百二十万円を美咲へ送金していた。
「昔からの幼馴染なんだ。困っているのに見捨てられないだろ」
拓海は美咲をかばい、夫婦なのだから葵も返済に協力すべきだと言い放つ。美咲も高級ブランドのバッグを持って葵の家へ現れ、「拓海くんなら助けてくれると信じていたの」と悪びれずに笑う。
その瞬間、葵は夫に対する期待を捨てた。
翌朝、葵が食卓へ置いたのは、記入済みの離婚届と弁護士の名刺だった。証拠を確保し、自分の財産を正当な手続きで守った葵は、三千八百万円の泥舟から鮮やかに降りる。
葵が去れば、二人で事業を立て直せるはずだった。しかし美咲の会社は、多重債務と虚偽にまみれた自転車操業だった。返済期限、担保となった自宅、職場への連絡、そして美咲の失踪。そこで拓海は、自分が美咲にとって特別な幼馴染ではなく、利用しやすい「財布の一人」にすぎなかったと知る。
一方の葵は、経理の経験と資格を生かして企業再生の世界へ踏み出す。誰かの無責任を肩代わりする人生を終え、自分の力で仕事も住まいも未来も手に入れていく。
すべてを失った元夫が、もう一度やり直したいと葵を呼び止めたとき、彼女は静かに告げる。
「あなた自身が選んだ闇の世界です。どうぞ、美咲さんとお幸せに」