あらすじ
「お兄さん、夏を守ってくれてありがとう」
夏の真っ只中。スーパーマーケットの缶詰棚の前で、橋本は冷気と退屈に指先を痺れさせていた。
アスファルトの陽炎も、夕立の匂いも届かない店内。「夏の大感謝祭」の文字だけが空しく踊る空間で、彼は自分がただの作業機械になっていくような重苦しい倦怠感を抱いていた。
そんな時、冷凍食品ケースの前に佇む麦わら帽子の少女・陽向が現れる。
「ここ、耳をつけると波の音が聞こえるの」
理科の実験報告のように真面目な顔でそう語る彼女は、冷気の箱の中に「閉じ込められた夏」を探していた。
少女の奇妙な言葉に誘われ、橋本が冷凍ケースに耳を寄せたとき、無機質なファンノイズの奥から聞こえてきたのは…。
見慣れた景色が鮮やかに塗り替えられていく、一夏の温かな奇蹟。