あらすじ

「お前の漉いた紙に、余分な値はつけない。どれも同じ紙だ」——寒の入りの朝、紙市の買い手の前で、親方はわたくしの手から簀を取り上げました。 水は日ごとに冷えが違います。雪解けの濁りが入る日は漉かない。寒が緩んだ日は簀を揺する回数を二つ減らす。叩きの足りない楮は薄く二度に分ける。柱に貼れるのは楮の量と叩きの回数だけで、水の読みは全部わたくしの頭の中にございます。 手間賃は入って半年の若い衆と同額に割り直され、柱には手順が貼り出されました。左様でございます。どれも同じ紙でございますね。ですからわたくしの分は、もう漉かなくてよろしいわね。 簀を洗って立てかけ、いつもの位置へ戻して漉き場を出ました。壊しも持ち出しもいたしません。やめるのは、漉くことだけ。 春の紙市で、あの漉き場の紙にだけ値がつきませんでした。表具屋が試し貼りで首を振り、束がそのまま返ります。誰も怒鳴りません。ただ次の月から、注文が来なくなりました。 川上の漉き場を任され、初めて自分の名で紙を漉いたわたくしの前へ「戻ってくれ」と立った親方へ、あの一句をそのままお返しするお話。

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小説を読もう2026/08/10
  • 現在の作品見限られ十一年の簀を取り上げられたので簀を伏せました。お宅の紙、春の市で値がつきません