あらすじ
「針仕事しかできない地味な女を、妻にはできない」
婚約者ヴィクトルにそう告げられ、妹リリアへ婚約者まで奪われた伯爵令嬢エレノア。
しかも父から命じられたのは――
「家を出るのは構わん。リリアの婚礼衣装だけは仕上げてから行け」
十年以上、父の礼服も、妹のドレスも、使用人の制服も。
エレノアは家族のために、すべて無料で縫ってきた。
けれど、その日初めて彼女は針を置く。
「もう、私が縫う理由はありません」
母の裁縫箱だけを抱えて家を出たエレノアは、その日のうちに偶然出会った“破れた王妃の式典ドレス”を修復することに。
誰にも直せなかった衣装を、わずかな時間で蘇らせた彼女を見ていたのは、王弟セドリックだった。
「君のそれは趣味じゃない。立派な仕事だ」
王宮へ招かれたエレノアは、やがて王妃専属の仕立師へ。
着る人の体格だけでなく、歩き方、座り方、昔の怪我による癖まで見抜いて型紙を引き直す彼女の技術は、王宮で次々と評価されていく。
そしてエレノアは、生まれて初めて知る。
自分の針には、きちんと値段がつくのだと。
一方――。
エレノアを失った伯爵家では、妹の婚礼衣装が完成しない。
父の礼服も直らない。
使用人の制服もほつれたまま。
そこでようやく家族は気づく。
今まで“針仕事くらい”と笑っていたものを、
ずっとエレノア一人に無料でやらせていたことに。
婚礼一週間前。
ついに父と妹、そして元婚約者が王宮まで押しかけてくる。
「家族なのだから戻って縫え」
「お姉様なら間に合わせられるでしょう?」
エレノアは婚礼衣装を見る。
――直せる。
三日あれば、十分に。
だからこそ、はっきり答えた。
「縫えます。でも、縫いません」
「もう無料では縫いません」
婚約破棄された“地味な針仕事しかできない令嬢”が、
王妃に選ばれ、自分の仕事と人生の値段を取り戻していく。
お仕事無双×婚約破棄×ざまぁ×不器用な王弟との恋。
針一本から始まる、逆転令嬢ファンタジー。