あらすじ
「我輩は猫である。名前はまだない」——かの有名な先猫はそう言ったが、名前がないのは何かと不便だ。だから私は自らを「小判」と名乗ることにしている。
人間と妖怪がゆるやかに隣り合う世界。町外れの診療所を舞台に繰り広げられる、猫気質な半妖と飄々とした町医者の、軽妙で少し愛おしい日常のひとコマ。
◆ 登場人物紹介
【小判(こばん)】
猫3割、人間7割という中途半端な体を持つ半妖怪の女の子。猫のように世間を第三者として達観・俯瞰しているが、人間の皮膚を持った足は傷つきやすく脆い。屁理屈と強がりが得意だが、根は素直で優しい。
【アンノ】
町外れの診療所を営む人間の医者。腕は確かだがどこか抜けており、商売気質なのかお人好しなのか分からない男。小判の軽口を受け流しつつ、ツケの代わりに薬草採取を命じるちゃっかりした一面も。
◆ あらすじ
足の傷の手当てを受けに診療所を訪れた小判。2週間で8回目という怪我の多さに呆れるアンノから「そろそろ金を払うか、裏山で薬草を取ってきてくれ」と頼まれる。
猫の可愛げで乗り切ろうとする小判だったが、世世の世情と経営難には勝てず、籠とメモを渡されて薬草採集へ向かうことに。
「最悪、山の河童さんにでも助けてもらうさ」と大手を振って意気揚々と歩き出した小判だったが、アンノの口から語られた衝撃の事実とは——?
「世間が悪いと言わないのは、君のいいところだよ」
「そうだそうだ。私は実に優しいのだ」
出鼻をくじかれても、足が傷だらけでも。猫の瞳で世界をゆったりと俯瞰する、小判のちょっと乙な世間歩きをお楽しみください。