あらすじ
大正の末。山が鳴りはじめると、七久里村は御名山へ花嫁を送る。
十七のあさに渡されたのは、桐の箱におさめられた『七久里花嫁帳』だった。
輿入れまでの七日間、一日にひとりぶん。これまでに嫁いだ六人の記録を読むことを、花嫁だけが許される。
月の花嫁は、ひとことも問わなかった。だからよき花嫁だった。
火の花嫁は、神を怒らせ、社ごと焼かれた。
水の花嫁は、村を救うため、みづから沈んだ。
――どの頁にも、同じ一行が書き足されている。「幸せであつた」と。
太い筆で。濃い墨で。五人ぶん、まとめて。
墓石だけが消えた初代。焼かれた墓石。真新しい堰。温かい御神木。
余白に残された、消し忘れの走り書き。
そして白紙のまま綴じられた六人目の頁は、
三年前に山から帰り、それきり口をきかない姉のものだった。
七日目。あさは自分の頁に、たった一行を書く。
「わたくしは、なをききます」
大正末、和風あやかし。全十四話・二週連続毎日更新。