あらすじ
「離縁してくれ——町一番の家から話が来た。悪いが、身の回りを片づけてくれ」——櫛屋へ嫁いで三年、寝かせ場のいちばん古い木地が、ちょうど今日で丸三年になる朝のことでございました。
つげは挽けば櫛になります。ただし三年寝かせた木でなければ、梳くうちに歯が根から飛ぶ。置いておくだけの三年に、元手を出していたのはわたくしでした。
わたくしは言い返しませんでした。「お望みのとおりに」とお答えして、片づけを始めただけでございます。講の掛け金を精算し、預かりの木地を持ち主へお返しし、通いのお客さまへ「これからは旦那さまがお挽きになります」とご挨拶して回りました。どれも、頼まれたとおりでございます。
半年後、お客さまが持ち込まれた櫛から、歯が一本まるごと落ちました。——三年は、消えていなかったのでございます。