あらすじ
一九四七年、占領下の東京。ラジオの人生相談番組「こころの相談室」――聴取者からの投書に答える文章を書いているのは、牧野定(まきの・さだむ)。放送で読まれるのは別の女優の声で、牧野自身の声は、一度も電波に乗らない。
戦争に行く前に終戦を迎え、誰も殺さず、誰にも殺されなかった牧野は、「運がよかったね」と言われるたびに「ええ」と答える。それ以外の言葉を、まだ見つけていない。
ある日、本所に住む女性から、一枚の投書が届く。
「この声、誰かに届きますか」
夫はビルマで右足を失い、復員してから様子が変わってしまった、と書かれていた。牧野はその投書を手に、本所を訪ねる。
声は届くのか。届くとしたら、それはどんな形でか――。
季節をまたいで描かれる、二部構成・完結済の連作。戦後を新たな視点から見つめる、占領下日本の物語。