あらすじ

わたくしは、二年で十二戦して、十二敗いたしました。  伯爵令嬢セルマ・ミルテ、十九。痛がった馬からは、途中で降りてきました。そのたびに賭け札が紙屑になり、次に回ってくる馬が悪くなり、いつのまにか最下位と呼ばれておりました。  「乗るからには、最後まで走ってくれ!」  その日、二年のあいだ誰も乗れなかった白馬が、埒を越えました。厩の者が三人、順に手綱を引いて、順に弾かれます。  引かれた馬が逃げるのは、たいてい口のどこかが痛いからです。  ですから、わたくしは手を下ろしました。  六完歩で、その馬は止まりました。  「王国杯に、この馬で出ろ。三十日後だ」  仰ったのは、王太子殿下でございます。続く一言が、こうでした。  「勝つな」  勝て、と言われたことは一度もございません。勝つな、と言われたのも、初めてでございます。  翌日、なぜあの馬が止まったのかと訊かれて、わたくしはこう申し上げました。  「三十歩の先から、五百二十斤が来ます。誰でも手を上げます。わたくしは十二回、上げませんでした」  馬医の見立ては、こうでした。あの馬の右前脚は、競走の脚でおよそ千八百歩。王国杯は、二千四百歩ございます。  六百歩、足りません――――。  手綱を引かず、手を下げたまま、馬の正面に立ちつづけた娘の話でございます。

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カクヨム
カクヨム2026/08/10
  • 現在の作品十二戦全敗の令嬢騎手ですが、王太子殿下に【王国杯】に出ろと言われました ~誰も近づけない白馬を止められるのは、わたくしの声だけだそうです~