あらすじ
早川湊が亡くなってから八年。そして、私が御堂怜央と付き合い始めて四年目の記念日。怜央は私の名義で、市川河川敷花火大会のフィナーレを飾るスターマインを協賛していた。
最後の光が夜空にほどけると、怜央は背後から私を抱きしめ、目を閉じて願い事をした。耳元に落ちてきた声は、遠い昔の別の人によく似ていた。
「澪。君は僕が愛している人であるだけじゃない。僕を深い闇から引き上げてくれた人でもあるんだ」
帰りの電車で、怜央はInstagramのストーリーズを更新した。黒い夜空に、消えかけた花火の残光だけが浮かんでいる。添えられた言葉は、ひどく短かった。
「聞こえた?」
北川直人が、ほとんど間を置かずに返信した。
「聞こえた。昔と同じ場所だったな」
あの花火が私のためだけに打ち上げられたものではないと知っても、悲しくはなかった。私にとって、怜央は救わなければならない相手ではない。
湊を死なせながら、自分だけ生き残った男だ。
私が自ら彼の家庭教師になった日から、救うつもりなど一度もなかった。湊が歩めなかった人生を怜央に最後まで歩かせ、幸福に最も近づいた瞬間、あの海へ連れ戻す。
それが、私の望んだ償いだった。